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国家戦略室が出した発電コストと、FIT買い取り価格(1)

 FIT(固定価格買取制度)の買い取り条件が「調達価格等算定委員会」で議論されており、まもなく結論が出そうだ。そしてこれに関して、「買い取り条件に関する関係団体の要望価格が、国家戦略室が算出したコストを大きく上回っている」という批評が、一部のメディアに掲載されていた。

 しかしこの批評は、適切でない。
 まず太陽光と小水力に関しては、各団体の要望価格と、国家戦略室の数字から算出したFIT価格に大きな差はない(後述する)。数字の意味を理解せずに批評するのは不適切である。
 また風力と地熱に関しても、条件設定を理解せず結果として出てくる金額だけを取り上げた単純な議論では有益な結論を得られない。
 数字の上面だけ見て「高い」「安い」と論評ことなく、合理的な政策論を期待したい。

 まずは関連リンクを。

○国家戦略室が公表したコスト算出関連の資料はこちら:
http://www.npu.go.jp/policy/policy09/archive02.html
 本稿では、「発電コスト試算シート」に記載された金額等をもとに議論する。以下、表計算シート中の設定値を引用する際には「国家戦略室発電コスト試算シートによれば」などのように表記する。どのシートの何行何列という引用がわずらわしいためで、ご了解いただきたい。

○調達価格等算定委員会の資料はこちら:
http://www.meti.go.jp/committee/gizi_0000015.html
 以下「調達価格等算定委員会第4会資料4」のような言い方で引用する。

 さて、まず最初に「調達価格等算定委員会第4会資料4」をご覧いただきたい。これは私自身が書き、4月3日の同委員会ヒアリングで使用したものである。何カ所も誤記(本文と単位)があり恥ずかしいのだが、公表されたものなのでそのまま引用する。以下、本ブログとこの資料を見比べながらお読みいただきたい。
(誤記については本シリーズ記事の最後に書く予定)

 スライド2に記載したように、全国小水力利用推進協議会(以下、水力協)では国家戦略室が公表したコストをもとにFIT価格を算定している。もし「水力協が提言した28.84~36.80円/kWhという金額は、国家戦略室が公表した19.1~22.0円/kWhから大きく乖離している」とだけ主張する方がいたら、その方は水力協の発表内容を読んでいないか、読んだ上で無視している。
 次に、スライド3。これは国家戦略室が公表した費用(発電コスト試算シートに記載された金額)を整理したものである。国家戦略室はこれらの費用を[事業期間40年、割引率3%の割引現在価値に換算]する手法で集計し、19.1~22.0円/kWhという発電原価を算出している。
 一方水力協は[事業期間20年、キャッシュフロー表からIRRを算出]する手法を用いている。

 水力協のスライド4~8は、割引率計算を用いずキャッシュフローの形で国家戦略室算出の発電原価を再計算したものであり、下限ケースで21.60円/kWh、上限ケースで25.04円/kWhという原価となった。
 19.1~22.0円/kWhと比べて約2.5~3円/kWh高くなっている原因は、事業期間(20年と40年)の相違、キャッシュフローと割引率の計算方法の相違が考えられる。また、風力発電協会が「調達価格等算定委員会第3回資料5」のスライド8で延べているように、国家戦略室が採用した[減価償却費の割引現在価値として建設費を算入する]方法も影響しているはずである。

 繰り返すが、ここまでは国家戦略室が公表した費用を、20年のキャッシュフローで再計算したに過ぎない。
 そしてこの結果に対する水力協の意見は、スライド9に書いたとおり、「建設費はもっと高く見積もるべき、操業費はもっと安くすることができる」ということであるが、総合的に言えばスライド14に書いたように「国家戦略室の想定費用にもとづいて算出してよい」としている(スライド10~12に記した水力協の意見は適宜意お読みいただきたい)。つまり、国家戦略室の想定コストにもとづき、PIRR=7%で算出した買い取り単価は28.84~36.80円/kWhになるのである。

 さて、経済に詳しくない方の中には、なぜこのような結果になるか、疑問を持たれる方もおいでだと思う。金額にずいぶん開きがある。キャッシュフロー表(「調達価格等算定委員会第4会資料4」参照)を見ればわかると言われても、慣れない方には難しいだろう。
 そこで、単純な金利計算で考えてみよう。


 住宅ローンを借りた最初の頃、返済計画表を見て「ずいぶん金利返済額が多いんだな」と思った経験はないだろうか? 一般的な元利均等返済の場合、返済当初は元金がなかなか減らず、金利ばかり払っているような気がするものである。「倍返し」などと言う人もいる。
 住宅ローンの場合さすがに「倍返し」は大げさだが、たとえば金利3%で30年ローンを組んだ場合、元利均等返済だと最終的な返済金利の合計が元金の約50%になる。表計算ソフトを使い慣れている方は、PMT関数を使えば計算できるので、試算してみていただきたい。

 本件の試算はリスクを伴う事業用資金の調達コストが問題になるので、3%という低金利で算出するわけにはいかない。IRR=7%といった議論をしているので、ここでは7%で考えてみよう。事業収益を資金調達コストに置き換えて計算するのは一般的手法である。
 表計算ソフトのPMT関数を使い、借入金を100万円(現在価値=-100万円)、金利7%、期間20年(年1回×20年返済)、将来価値0円、支払日期末、とすると、毎年の返済額は94,393円と算出されるはずである。このうち元金相当額は毎年5万円であるから、残る44,393円が金利相当額になり、元金の88.8%に相当する。
 7%というのは調達金利(リスクを伴う事業の収益率)として決して高くないが、長期の事業ではこのように金利負担が大きくなってくる。事業期間20年が妥当かどうかの議論はもちろん必要だが、それは別途。

 さて、スライド8の「建設償却費」は、国家戦略室が想定した建設費(80~100万円/kW×200kW)を20年間の発電量で割った、kWhあたりの金額である。建設費を全額借り入れしたと考えれば、上記のとおりこの金額の88.8%の金利を支払わなければならない。したがって、下限ケース(7.61円/kWh)には6.76円/kWhの金利が、また上限ケース(9.51円/kWh)には8.44円/kWhの金利が発生する。これを加算すると、下限ケースの費用が28.36円/kWhに、上限ケースが33.48円/kWhになる。
 この結果を、水力協が税引き前IRR=7%で算出した(スライド13)「下限ケース28.84円/kWh、上限ケース34.06円/kWh」と比較すれば、単純な金利モデルとキャッシュフロー表モデルに大きな差がないことがおわかりいただけると思う。
(この金利モデルの計算は、キャッシュフロー表では税引き前IRR計算に相当する。税引き後IRRに相当する計算を同じようなモデルで行おうとすると、おそらくかなり複雑になる)

 FIT制度は今後の再生可能エネルギー普及の核となる制度である。したがってその内容を議論する場合には、実際のコスト、適切な収益率(金利)、結果として生じる国民負担といった切り分けをきちんと理解した上で議論しなければならない。算出された金額だけを見て「高い」「安い」という粗雑な議論に振り回されないよう注意が必要だ。

(注) それぞれの数値を皆さんが検証される場合、計算途中の丸め方法により多少の誤差が生じることがあります。

【以下、(2)に続く予定】

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