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電力インフラ整備に民間資金を誘導する制度

 国会で審議されている再生エネルギー発電の固定価格買取制度について「一種の目的税だ」「補助金だ」という理解が一部に見られる。
 しかし私は、インフラ整備に民間資金を導入するための制度として理解すべきだと考えている。また、メーカーなどの競争を促し価格を下げる誘因の面でも優れている。
 そう考える理由を説明するのが本稿の目的である。

 まずは、戦後復興から高度成長にかけての時代、総括原価制度(※)が電力インフラ整備におおいに貢献した理由を振り返ってみよう。
 当時はとにかく量が必要な時代であった。工業生産力を高めるためにも、都市部の生活向上に伴う電力需要増大に対応するためにも、発電所を次々に建設する必要があった。また、山間地などには無点灯地区(配電網が到達していない地区)が多数残されていたので、送配電線と変電所を建設する必要もあった。
 このようなインフラ整備には大量の資金が必要となる。政府支出(税金)を充てる社会主義的な方法もあるが、日本は民間資金を誘導する方法を選択した。その具体的手法が総括原価制度である。
 この制度によれば、電力インフラに投じた資金は金利も含めて確実に回収できることが法律で裏書きされている。それゆえ電力株や電力債は超低リスクの株・債券と位置づけられ、多くの資金を集めることができたのである。

 その後石油危機が到来し高度成長時代が終わるとともに、量的拡大の必要性もなくなった。
 量的拡大が必要なくなると、総括原価制度の欠陥が目立つようになる。過剰な設備や無駄な支出もすべて総括原価として売上に加算できるので、コスト削減の誘因がまったくないことだ。
 とはいえ地域独占状態ではほかに適切な価格決定制度もなく、現在に至るまで一般電気事業者にはこの制度が適用されている(報酬率は下がったが)。

 さて、今日私たちは新たな課題に直面している。温暖化対策、あるいは資源ピーク対策としてのエネルギーの脱炭素化である。原子力は除外することにして、エネルギーインフラのグリーン化としよう。
 これもエネルギーインフラの大転換であり、大量の資金投下を必要とする。それを民間資金で賄うのであれば、資金誘導策を講じる必要がある。しかしながら、欠陥が目立つ総括原価制度に戻るのも不適切だろう。
 そこでドイツが考案したのが固定価格買取制度(以下、FIT)である。水力・風力・太陽光などの発電方式別に、また出力規模や地域の平均風速など細かい条件を丁寧に考慮して、それぞれの発電所からの買い取り価格を決定し(これをチューニングという)、長期にわたって(たとえば20年)固定するという制度だ。
 この制度は「モデル発電所式総括原価制度」と理解することができる。発電方式、規模、条件などで分類した上で、各区分ごとにモデル発電所を想定し、そこでの総括原価にもとづいて買い取り価格を設定するからである。これまでの総括原価制度では一つ一つの発電所ごとに総括原価を算出していたが、FITではモデル発電所で算出し、ここの発電所の建設費・運転費は問わないのである。
 たとえば、100キロワットの小水力発電所について、建設費1.4億円、年間運転費448万円、設備利用率60%というのが現時点で妥当なモデルだったとしよう。20年の固定買取でPIRR(報酬率に相当)を5%とすると、買い取り価格は約30円になる。
 この条件の下で発電事業者が発電所を建設し運転するとして、何を考えるだろうか。
 難しく考えずにモデルに準拠した発電所を建ててよろこぶ事業者もいるだろう。しかし普通は、メーカーと交渉したり工法を工夫して建設費を下げる、あるいは運転管理方法を工夫して運転費を下げるはずだ。販売価格が固定されているので、建設費や運転費を下げた分が丸々利益の増加につながるのだから。
 古くから民間の小水力発電事業が行われ電気事業者に売電されていたが、その価格は総括原価方式だったため、努力してコストを下げると買い取り価格もその分下げられるため、経営者の意欲を著しく損なっている。この問題が、FITの導入で解決されるのである。

 このような過程により、多くの発電事業者の働きかけとメーカー・建設会社の努力で建設費が低下し、あるいは運転費削減の手法が一般化してきたら、買い取り価格を見直して実態に合わせた水準に下げる。チューニングは、初期の価格決定だけでなく、価格見直しの際にも重要なのである。

 世の中には完璧な制度はなく、FITにも欠陥はある。チューニングを相当細かく行ったとしても、個別の発電所の立地条件にはばらつきがあるので、多数の発電所が成り立つ価格を定めると、一部の発電所で「ぼろ儲け」が生じることを避けられないのである。
 どうも日本人は、一部の事業者がぼろ儲けすることを嫌う傾向が強いように思う。それを回避したければ、FITではなく総括原価制度を採用せざるを得ないだろう。しかしこの場合、コスト削減誘因がないのでコストが高止まりし、結果的に社会的費用が大きくなるだろう。FITによれば、一部のぼろ儲けがあったとしても、社会費用全体では総括原価制度の場合より小さくなるに違いない。
 もちろん、そのためにはチューニングの精度や頻度が重要になる。

 エネルギーは重要な社会インフラである。今日私たちは環境制約・資源制約に直面しているので、エネルギーインフラのグリーン化という大転換を行わなければならない。
 インフラ転換に必要な資金を民間から調達するために、そしてメーカーの競争などによるコスト削減も達成するために、FITは効果的な制度である。ただし、それが機能するか否かはチューニングにかかっている。
 これが本稿のまとめである。

 以上長々と書いてきた内容を簡単にまとめたスライドを作成した(2008年10月3日に建築学会地球温暖化対策推進小委員会で発表)。下記にリンクを張るのでご参照いただきたい。
「電力インフラ大転換に必要な投資を誘発する制度は何か?」(pdfファイルをダウンロード)

(※)総括原価制度
 発送配電に必要な全ての費用(設備、運用、営業など)を加算して総括原価を算出し、さらに一定の報酬率を加算した金額を、売電収入で得られるよう電力単価を定める制度。
 当時の報酬率は総括原価の8%で、今日から見ると過大に見えるが、インフレ率の差を考慮すれば今日の2-3%程度に相当するのではなかろうか。現在の報酬率は3%に定められているらしい(未確認)。
【2011/09/15訂正】
 「総括原価の8%」ではなく、「事業用資産の8%」でしたね、確か。後日確認して最終的に確定修正する予定です。

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コメント

ドイツは風力等でモデル発電所使ってますけど、風力は場所によって発電量違うんで、「ボロ儲け」を防ぐために、発電量に応じて買い上げ額を変えてるはずですよー。
条件の良いところは安く、悪いところは高めに。
こうすると国全体では同じ助成額でも、より多くの資源が開発できるので。

投稿: 櫻井啓一郎 | 2011.09.15 17:44

 櫻井さん、コメントありがとうございます。

 モデルはできるだけ緻密にした方が「ぼろ儲け」や、逆に「普及しない」といったことを防げる。ただし当然のこととして、完璧なモデルはない。
 ぼろ儲けを防ぐために一件一件算定しはじめたら総括原価に帰着する。
 まあ、その辺のさじ加減、納得加減の問題ですよね。

投稿: dai(本人) | 2011.09.15 17:49

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