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サーベイメーターを使った計測に関する考察(福島原発事故について)

※注 私は放射線計測について全くのシロウトです。以下の記述は、物理学に関する一般的知識に基づいて書いたものです。専門家は厳密性を考えなければならないので、シロウトの方が気楽に書けるかな、くらいの趣旨。
【書いた直後に1桁間違いに気づき、もろもろ再検討して、 2011/05/19 06:40 に大きく訂正入れました】

 ツイッターに、下記の個人ブログが引用されていました。
http://4travel.jp/traveler/misimadaisuki/album/10567350/
丁度いい題材だと思ったので、ここに書かれた内容を検討してみます。

 上記ブログの著者を、ここではM氏とお呼びすることにします。まったく知らない方です(余計な詮索を排除するために付記しておきます)。
 また、ここで使っている計測器(M氏は「ガイガーカウンター」と書かれています)を、私はGM計数管式サーベイメーターとよぶことにします(ちょっと長いけど)。

 さて、M氏が使っているGM計数管式サーベイメーター Aloka TGS-121 については、文部科学省の「環境防災Nネット」というサイトに取り扱い方が書かれています。(下記ページの、1.1.4)
http://www.bousai.ne.jp/vis/bousai_kensyu/pocketbook/index.html
 そして、こういう記述があります。

[取り扱い方から抜粋]
 線量率(μSv/h)は下の目盛で読む。上の目盛は、検出器先端のアルミキャップを外してβ線を測定するとき

 M氏は、氏自身がブログに明記しておられるように(記録するのは大切なことですね)、キャップを外した状態で計測し、下の目盛の線量率(μSv/h)の数値をブログに記録しておられます。つまり、間違った計測を行っている、ということになります。

 しかしもし、取り扱い方法を遵守して、上の目盛のカウンター値(s-1:毎秒のカウント数のこと)を記録していれば、正しい計測をしていたことになったはずです(取り扱い方の他の部分を遵守していたとして、ですが)。そして写真があるので(厳密に言うと、写真記録は問題ありですが、本稿の範囲では精度を問う必要がないので無視します)、上の目盛も記録されています。
 そして、写真を見る限りM氏の計測結果は毎秒20カウント前後だったことがわかります。

 以下は私の個人的意見ですが、そもそもサーベイメーターというのは放射線量を定量的に計測するのに適した器具ではないと思います。おおざっぱに放射線をカウントして、どの程度危険かの概略を簡便に把握するためのものだと思うのです。SF映画で、「ガイガーカウンター」を持った科学者が洞窟に進入し、最初はポツポツ言っていたのが、やがて、デデデデになり、ガーになって「ここから先は危険だ!」と叫ぶイメージ。

 ということで、おおざっぱに言って毎秒20カウントがどれだけ危険かな、と、試しに計算してみました。

 まず、カウント数の評価。ここではβ線が卓越していると想定して考えることにしましょう。
 筒型の計数管の前方断面から入射したβ線がすべて係数されたと、とりあえず想定します。
 計数管の断面積(入射面積)を、そうですねぇ、、5cm2 としましょうか。

 次に、人体モデル。
 1cm線量当量モデルについての下記記載(財団法人高度情報科学技術研究機構サイト)
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_No=09-04-02-06
を、シロウトの私が大胆に整理すると
 β線の外部被曝は、体表面から1cm以内の深さ皮膚が(均等に)被曝して皮膚ガンの原因になるという想定で大きく外さない
と理解しました。
 吸収線量当量(シーベルト単位)は生体1キログラム(≒1,000cm3)の吸収線量ですから、深さ1cmとすると1,000cm2の体表面に入射したβ線のエネルギーを被曝するという計算になります。

 β線のエネルギーとしては、以前の記事
http://energy-decentral.cocolog-nifty.com/blog/2011/04/137-46a1.html
に書いた0.551MeV/countを使いましょう。

 これで計算の材料が揃いました。
【以下、初期バージョンには1桁計算違いがあったのと、β線の検出率が結局わからなかったので全面改定 2011/5/19 06:40】

 5cm2の面積に毎秒20カウントということは、1,000cm2の体表面に毎秒4,000カウント=毎時1440万カウント(1時間は3,600秒)。
 1カウントが0.551MeVだから、1440万カウントは約7,930,000Mev。

 これに、1.602e-13 J/MeVを乗じると、約1.3e-7 J =1.3μシーベルト毎時
ということになります。

 ただしこの検討結果には大きな問題が残されています。「筒型の計数管の前方断面から入射したβ線がすべて計数されたと、とりあえず想定します」と書いた部分です。入射したβ線が内部のガスを通過して電極に吸収されてしまうことを考えなければなりません。入射したβ線のうち何%が計数されるのでしょうか?
 ネットでごそごそ探した範囲では、本稿で使えそうな根拠が結局見つからなかったので、尻切れトンボで恐縮ですが、何か有力な情報が見つかるまで、この話はここで打ち切りにしておきます。
 上記の1.3μシーベルト毎時という値で言う限りは、文部科学省のホームページに掲載された福島市周辺の空間放射線量(5月18日現在)=1~2μシーベルト毎時と矛盾はありません。

 尻切れトンボの議論ではありますが、マニュアルどおりにカウント値で記録し、後からその意味を検討するのが正しい態度だと思います。
(地表付近その他放射性物質が付着する恐れがある場合にはカバーするなどについては、放射線計測の一般論に譲ります)

【追記 2011/5/20 08:20】
 大切なことを見落としていました。
 同一の人が、同一機器・同一方法で、歩き回った範囲の数値を記録し、公表するという意味も大きいように思います。
 毎秒20カウントは毎分1,200カウント(cpm)であり、cpm単位の計数値を公表しているサイトもみかけるので、大まかな比較もできると思います。(たとえば下記)
http://www.ncc.go.jp/jp/information/sokutei_ncce.html

 測定器をお持ちの方は、マニュアルどおりに素直に測定し、測定条件や写真などの記録と合わせて大勢でデータを持ち寄れば、いろいろなことがわかると思います。
 測定方法については、たとえば下記サイトが参考になると思います。
http://togetter.com/li/136232
https://docs.google.com/document/pub?id=1wTJmhKLhGI8gUUJGP3Dcro3fIXa037B6gSsBzGP32oU
【追記終わり】

 全部書き上げてからM氏のブログにコメント入れようと思っていたのですが、会員以外はコメントできないページのようでした。ご本人が知らないところでコメントした形になってしまいましたね。ご本人や関係の方がご不快に思われるかもしれませんが、会員以外がコメントできないことに気づいたのが本稿を書いた後だったことと、ブログを公開している以上知らないところで引用されることは覚悟しておられると思うので、本稿もこのまま掲載することにします。

p.s.
 文部科学省が公表している福島市内中心部の1μシーベルト毎時という値は、そのまま年間に換算すれば9mシーベルトであり、かつ今後あまり減衰が期待できないと考えるので、避難対象地域、少なくとも任意で非難する人にも必要な費用を弁償すべき地域だと考えます。

【追記 2011/05/19 07:10】
 本稿を書いた意図について。
 「建設的批判て、何だろう」と考えていたときに上記ブログが目にとまったため書いたのが本稿です。
 マニュアルに反した測定をした(キャップを外した状態で、カウント値ではなくμシーベルト毎時の値を記録した)時点で、すでにこの著者は間違っているわけです。けれどそれに対して「科学的にいい加減な数字を広めるな。デマだ!」と批判しても、「現場に行って測ってきたんだ!」といった論争になるばかりで、あまり建設的な結論が出る気がしません。
 せっかく現場に行って写真入りで記録し、キャップを外したこともきちんと書いているわけですから、拾えるデータは拾いたい。本文に書いたとおり、カウント値を読んでいればマニュアル違反にはならない(放射性物質が付着しないための努力については置いておきます)わけですから、カウント値から出発してどの程度のことがわかるかを考える方が建設的ではないだろうかと考えた次第。
 残念ながら私の知識不足のため、ちゃんとした結論は出せませんでしたが、GM計数管サーベイメーターのように方向依存性がある機器を使う場合に何を考えなければいけないか、とか、いろいろ勉強になりました。
 お読みになった方が放射線計測、あるいはもっと広く物理量を計測するという行為について考えていただくきっかけになれば幸いです。

【2011/07/23追記】
 KEKの野尻先生による「放射線の正しい測り方」講義が下記URLでマンガになっていました。参考になると思います。
http://p.booklog.jp/book/30823

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コメント

よくわかりませんが、キャップを外した状態で=ベータ線はブロックしてガンマ線だけ測っているのが通常の測定なのだとすると、ベータ線プラスガンマ線を測っている今回の測定では通常のレベルよりも当然高くなる、だから、ガンマ線核種の汚染が高いかのようなバイアスが掛かる、という批判がさせているのだと思います。
 結論は両方のはかり方をやっとかないといけない。
でもまあ、ベータ線核種による被爆が年間20mSvの議論に入ってないとするともっと問題なので、はかり方問題に焦点があたることは歓迎の方向かと。

投稿: おぐおぐ | 2011.05.21 19:58

おぐおぐさん
 そうそう。公的機関が公表するデータの意味を知るためにも、自分で測ることは大切ですよね。「隠している」「デマだ」という議論は不毛なので、関心を持った人が理解を深めていく道筋が必要だと思います。
 ただ、確率的現象を理解するのは文系の方には難しいようで、とくに原理的に確率的という放射線(量子力学)を理解してもらうには工夫が必要ですね。

投稿: dai(本人) | 2011.05.22 07:15

ツイッターで流れていました参考に:
ガイガーカウンターでのβ線測定時の誤った表示について www.mikage.to/radiation/info/info0001.html

投稿: おぐおぐ | 2011.05.24 23:50

おぐおぐさん
 コメントありがとうございます!
 計数率をわかりやすく説明しているサイトですね。すっきり理解できます。

 「皮膚はβ線に強いから外部被曝の際にβ線を考慮しない」というのは、ちょっと納得いかないところです。これだけ紫外線を浴びても皮膚ガンにかかる率は低いから、といったところでしょうか?
 とはいえ、放射線で傷ついたDNAを修復するごとに細胞が老化するそうですから「β線はお肌の大敵です」とは言えるでしょうね (^^)
 生体への影響評価までくると、まったく勉強していない世界に入ってしまうのでお手上げです。

投稿: dai(本人) | 2011.05.25 08:26

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