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エネルギーが「再生可能」であることの物理的意味

※「再生可能エネルギーという用語法への批判に反論」というタイトルだったのですが、しっくり来なかったのでタイトルを書き換えました。

 「再生可能エネルギー」という用語について、エネルギーそのものが再生されるわけではない、という批判がなされているようです。
 たとえば、再生紙であれば今読んでいるこの新聞紙のパルプがちり紙になって使われる一方、この蛍光灯が使った電力(低温の廃熱になってしまった)が再生されるわけではないのだから、「再生」可能エネルギーと言うのはおかしいかもしれない。

 しかしながら、パルプ繊維のような物体にはラベルを付けることができるのに対して、エネルギーにラベルは付けられない。あっちから来たエネルギーとこっちから来たエネルギーが混じった場合、合計のエネルギーがここに存在することになるが、どのエネルギーがどっちから来たのか、という問いは意味を持たないのです。
 以下の論理に依れば、エネルギーを「再生」可能と呼ぶことはさほど乱暴な用語法ではないと私は考えます。いやむしろ、積極的に再生可能と言っていいのではないでしょうか。
 ただし、時間スケールに関する論考も不可欠であり、これについては稿を改めて論じることにします。

 水力発電で生じた電気を蛍光灯で使ったとします。電気エネルギーは光と熱のエネルギーになり、光は壁や床に当たって熱になります。発電した電気はすべて、最終的には今日の気温の温度をもつ熱エネルギーに変わります。
 今の時期は季候がよく、最近の東京では大気中放射性物質濃度も検出限界以下なので、窓を開け放っているとしましょう。蛍光灯周辺で暖まった空気や、壁・床周辺の空気は、短い時間で外気と入り交じってしまいますね。我が家の蛍光灯を灯したエネルギーが今どこにいるか、もはや特定することはできなません。
 家の近所に水たまりがあったとします。小さな水たまりなので、水温は気温とほぼ同じ。我が家を離れたエネルギーは、今、ここに来ているのかもしれませんね。
 この水たまりから水が蒸発します。水温・気温が一定の状態を保ちながら水を蒸発させるためには、外部からエネルギーを供給する必要があります(気化熱を奪われるから)。地上に降り注ぐ太陽エネルギーが主たる供給元なのですが、我が家の蛍光灯を灯したエネルギーも、ささやかながらそこに貢献しています。そして、蒸発して上空に昇っていく水蒸気が持っているエネルギーの供給元が太陽だったのか、それとも我が家の蛍光灯から来たのかは、区別することができません。
 そして上空に上った水蒸気は、温度が下がることでやがて凝結して水滴(雲)になりますが、そのとき電磁波(赤外線など)を放射します。放射の一部は地表方向に戻り、残りは宇宙空間に放出されます。

 このプロセスを大きな目で見ると、太陽から地表付近に到達する日射エネルギー量と、上空で水蒸気の凝縮などにより宇宙空間に向かって放出される放射エネルギー量が釣り合っていて、地球全体のエネルギー収支がバランスして、定常状態が保たれていることになります。(厳密に言うと、次回論ずる予定の地熱などの分が宇宙空間への放射に加算される)。

 注意していただきたいことが一つ。
 地表付近で水が蒸発する際に受け取ったエネルギー量と、上空で水蒸気が凝縮して水に戻る際に放出するエネルギー量がバランスしているからといって、すべてを太陽エネルギーが引き起こしたと言ってはいけません。地表にあった水を上空数千メートルまで持ち上げるエネルギー(位置エネルギー)も必要だからです(※1)。
 さて、上空に昇った水蒸気は水滴となり、やがて雨として落下してきます。雨粒が落下する際には、獲得した位置エネルギーの一部を空気との摩擦で熱に変えたり、地表で川となって地面との摩擦で熱に変えたりします。また、たまたま水力発電所につかまった水滴は、水車を回して位置エネルギーを電気エネルギーに変換します。
 このようにして「生じた」電気エネルギーが、「再び」我が家の蛍光灯を灯したとき、それを「再生」と呼んで不都合があるのでしょうか? 私は水力発電を「再生可能」エネルギーと呼ぶことに抵抗を感じません。

 では風力発電はどうでしょうか。
 ちょっと上で(※1)という印を付けました。そこでは位置エネルギーのことしか書きませんでしたが、実は、水蒸気が上昇する際には周辺の空気を巻き込んで上昇気流(低気圧)となり、風を起こします。つまり、水滴の位置エネルギーになった分が水力発電の元、上昇気流で風を起こした分が風力発電の元になっているわけです。

 太陽光発電はどうか。これは乾いた大地に落ちた日射と同じような振る舞いをし、やはり再生可能と言えるものと考えます。
 太陽熱利用はどうか。池などに落ちて水を温める日射と同じようなものですね。

 バイオマスはちょっと複雑です。しかし、日射を高熱源、上空で宇宙に向かう放射を低熱源とした熱機関モデルで地球を考える場合、大きく見ればバイオマスも同じように考えることができるはずです。(めんどくさいので詳論は省略)

 波力は風力の変形。潮力は「海水の風力」みたいなものと言っていいでしょう。これもとりあえず詳論は省略。

 ということで、ここまでの範囲のエネルギーは「再生可能」と言って差し支えないと思います。しかしながら、再生されるということが、何か不自然で(たとえば永久機関みたいなにおいがして)気に入らない人も多いと思います。
 一部の人は、エクセルギーという概念を使うことで納得します。エクセルギーは太陽から地表付近にやってきて、自然に、あるいは人工的な利用を通じて、やがて消費されてしまいます。再生されることはなく、一方的に太陽から供給されるという見方です。
 別の一部の人、ややひねくれた人はエントロピーという概念を使って納得します。地表付近の自然現象や人為的活動はすべてエントロピーを生じます。これが溜まってしまうと活動に支障が生じるのですが、水蒸気が上昇気流を起こし、上空で宇宙に向かってエントロピーを捨ててくれているので、地表付近の快適な環境が保たれているという考え方です。何かをゲットするのではなく、活動に伴って生じる「悪さ」を宇宙に投げることで活動しているという考え方。ただし、エントロピーというのはそれそのものを投げることができないので、エネルギーに「くっつけて」投げる必要があります。したがってエントロピーを捨てる際にエネルギーが減ってしまうので、その分を太陽から補給してもらう必要が生じます。

 エクセルギーやエントロピーというのは、まあ、こんな見方考え方で用いる数量です。
 そうではなく、あなたがエネルギーを使って考えるというのであれば、それは「再生可能」と言って差し支えない。私はそう考えます。

(次回は、地熱と潮汐力、そして時間軸について論考を続ける予定)

【追記】
 考えてみたら、日射を直接エネルギー変換する太陽光発電をイメージして「再生可能はおかしいのでは?」という意見が出てきたのかもしれませんね。
 本稿では太陽光発電が「再生可能」である意味の検討をすっ飛ばしましたが、次回にあらためてこれを検討することにします。

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コメント

貴殿の論法によれば、現在化石燃料と言われている、
石油、石炭も永い年月をかければ、再生されると思いますが、
再生可能とは、人為的に再び使用出来るようにすることで、
別の言葉を考えられる人は、居ないのですかね。

投稿: 小西行夫 | 2011.07.14 19:56

貴殿の論法によれば、現在化石燃料と言われている、
石油、石炭も永い年月をかければ、再生されると思いますが、
再生可能とは、人為的に再び使用出来るようにすることで、
別の言葉を考えられる人は、居ないのですかね。

投稿: 小西行夫 | 2011.07.14 19:57

小西様
 コメントありがとうございます。

 (1)~(3)までざっと読み返して、時間軸の話しを書き落としたことに気づきました。
 基本的には地球の熱収支を論じており、1年単位の周期的変動を基本的な時間範囲として考えています。したがって化石燃料は対象外です。

 「更新性エネルギー」の方が良いとする友人がおり、私もそれに賛成ですが、定着してしまった以上「再生可能エネルギー」でも悪いことはないかな、くらいに考えています。
 ただ、今の機会を捉えて言い直しを定着させる、という考えにも一理あると思っています。

投稿: dai(本人) | 2011.07.15 08:50

「1年単位の」という定義が、いつ、どこで語られたのでしょうか。。
wikipediaでもそのような定義は見受けられないように思いますが。。。
http://ja.wikipedia.org/wiki/再生可能エネルギー

みおとしていたらすみません。

投稿: よし | 2011.07.25 21:24

よし様

 コメントありがとうございます。
 地球の熱収支の周期的繰り返し成分(フーリエ展開とでも言いましょうか)のうち、ここの議論において意味を持つ最大の成分は年単位の周期変動だろうという意味です。

 ここに限らず、議論の中で、対象とする時間スケールを明示的に書かないことは珍しくないと思います。
 ここでは再生という概念を熱力学的サイクルモデルで考えているので、対象とする時間スケールの中で周期的繰り返しを複数回(最低でも5-6回程度でしょうか)繰り返すことが意味を持つ基本条件であり、産業社会という意味では数十年以内のサイクル、文明という意味では千年程度以内のサイクル、ホモサピエンスという種まで広げても百万年程度以内のサイクルしか対象になりません。
 この時間スケールの中で化石燃料について周期的繰り返しがあるとする根拠を持っていないので、対象外としています。

投稿: dai(本人) | 2011.07.25 21:44

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