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経済指標の次元解析、あるいは時間が分母にくる意味

 以下は、2009年9月20-21日に開催された第27回エントロピー学会シンポジウムの記録として、同学会誌第68号に掲載した内容(多少手を入れた)の前半である。後半は次のブログに入れる。
 ここで論じる「経済指標の次元解析」は、産業・経済・資源について、ストックとフローを「時間」次元から解析したものである。人前で最初にこの話をしたとき「あなたは哲学を数学で語る」という感想を聞いた。読者はどう感じるだろうか。

 枯渇性資源と再生可能資源の差異の本質は、フローとストックに着目することで明らかとなる。
 表1に示すように、枯渇性資源はフローが無限、すなわち無制限に大きくすることができるのに対して、ストックは有限である。例えば、ここにある油田があったとして、資本を投下し油井を多数掘削すれば、時間あたり産油量はいくらでも増やすことが可能だ。その一方で、この油田から産出される石油の総量は原始埋蔵量を超えることはできない。
 一方再生可能資源は、フローが有限である一方ストックは無限である。例えば、ある水系で水力発電を行う場合、年間降水量と標高差から算出される重力エネルギーの年間フロー量を上回ることはできない。一方、気候や地形に大きな変化が生じない時間スケール(人類の文明はせいぜい数千年である)で考える限り、毎年ほぼ同量のエネルギーを永久に得ることができ、ストックは無限と言える。

表1 ストックとフローに着目して示した枯渇性資源と再生可能資源の本質
1

 人類は再生可能資源に依拠して文明を築いてきたが、産業革命後期になって枯渇性資源を利用することを覚えた。そしてこれにより、投資を行なうことで生産量(フロー)を限りなく増やせるという経済モデルが生まれた。
 フローは時間が分母にくる量(流れの量)である。マネーのフローは[$/yr]、エネルギーのフローは[GJ/yr]・[kWh/yr]、マテリアル(資源・排出物)のフローは[t/yr]、といったように、時間(yr)が分母に来る単位で表記される。
 今日の地球社会は、資源と排出物の両面で制約に直面している。このことは、ストックの有限な枯渇性資源に依存し無限のフロー増大を目指してきた後期産業革命以来の経済社会が限界に直面したと理解できる。人類は、再び再生可能資源に依拠した有限フローの経済に移行しなければならない。
 そのような社会では、当然、時間が分母に来ない量が経済指標とされるはずである。たとえば就業率(1-失業率)[%]、や、何らかの幸福度指数、あるいは人間開発指数のような量が採用されることであろう。
 ここで、「時間が分母に来る」ということの意味をより深く理解するために、幸福度に関して少々検討しよう。
 ブータン国王が提起した「国民総幸福(GNH: Gross National Happyness)」という概念は、各国、とくに先進国と呼ばれる国々において経済成長と幸福の関係を考える契機となった。
 このGNHを定量化する試みも行われているようだが、私は定量化することは困難だと考えている。しかし、比較は可能だろう。というより、比較が不可能ではこの概念を提起した意味がない。ブータンは一人あたりGNPでは最貧国に分類されるが、幸福度、すなわち一人あたりGNHでは先進国に劣らない、という主張がこめられているのだから。
 ここで、経済効率に関する一つの指標を提案したい。同じ量のフローでより多くの幸福を生み出すことができる社会は、より経済効率が高い社会だと言って不思議はないだろう。そこで、GNH/GNPという量(「ハピネスの経済効率」とよぼう)を指標として、この値が大きいほど効率的な社会だとしよう(人口の異なる国を比較するには一人あたり量を使うべきだが、分母分子に共通するので、簡略化のため国の総量で記した)。
 もし日本人とブータン人の幸福度が同程度だとすると、ブータンの一人あたりGNPは760[$]、日本は35,000[$]であるから、ブータンの経済効率は日本の46倍だということになる。
 さて、ここでこのGNH/GNPという量を次元解析してみよう。GNHはおそらく無名数になるだろうが、わかりやすさのため[Hp](ハッピー)という単位(次元)を持つものとする。
 GNPの単位は[$/yr]であるからGNH/GNPの単位は[Hp・yr/$]となる。
 ここで時間が分子にきていることに注目していただきたい。先に述べた就業率のような指標は時間の次元を持たなかったのに対して、この量は分子に時間次元を持っている。これを指標とした経済を構築できれば、私たちは失った時間を取り戻すことができるかもしれない。
 このような経済指標の次元解析の試みを、表2のように整理して「哲学的な話」のまとめとする。

表2 経済指標の次元解析
H2_3


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