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国別CO2排出量の一人あたり目標値に関する論考

 「CO2排出量基準は一人あたりが合理的」という記事を少し前に書いた。その後この考え方にもとづいて2050年の目標値を試算したところ、興味深い結論が得られたのでご紹介したい。

 基本となる考え方は、○○年比△△%、といった相対量ではなく、一人あたり排出量の絶対値を目標値の基準にすることと、人類全体の総排出量目標値を定めて、それを達成するための各国の目標値を算出することである。
 具体的には、まずIPCCの結論に沿って、2050年の人類総排出量を1990年の50%、すなわち10,454Mt-CO2とした(以下、数値はすべてエネルギー・経済統計要覧2008をもとに算出する)。
 次に「一人あたり」の算出であるが、これについては2とおりの考え方があると思う。
 第一の考え方は、2030年なり、2050年なり、そのときどきの人類一人ひとりに同量の排出量を割り当てるという考え方だ。もっとも素直な考え方ではあるが、日本のように人口がこれから減少に向う国にとっては、インドやアメリカのような今後も人口増加が予想される国に文句を言いたくなる。地球が何人の人類を養えるかが課題になる状況になっていると私は考えるので、人口増加対策を取らない国の割り当て率が自動的に高まるルールは不適切だと思う。
 そこで第二の考え方。特定の基準年を定めて、その年の人口で按分するという方式が考えられる。つまり、2030年なり、2050年なりの人類全体の目標値を定めた上で、国別の按分比率は特定の年の固定された人口比で按分するという考え方である。
 私は第二の考え方のほうが妥当だと思う。ただし論理的には、どちらかというと第二の方に軍配かな、くらいのことだ。
 論理以外に重要なのは、日本にとって第一と第二にはかなり大きな差異があり、なんとか第二に持ち込みたいという点。外交の世界は、少しでも自国に有利になるよう力を尽くすのが当然の世界だと私は理解しているので、本論では日本に不利にならない第二を選択する。

 第二を選択した場合、次に問題になるのは基準年をどうするかである。
 ここでも外交的努力を発揮することにしよう。日本はかなり長いこと人口が横ばいで推移しているので、基準年は前になればなるほど有利だ。
 そこで1990年を基準にしようと思う。選択肢はいくつかあるだろうが、90年は基準年としての資格を持つ年次の中で最も古い年であろうから、日本にとって最も有利になる。しかも、90年比で2050年に半減、というIPCCの論理を使うのだから、人口の基準年を90年にすることは説得力がある。

 というわけで、
(1) 2050年の人類の総排出量を10,454Mt-CO2とする
(2) その総排出量を、1990年の人口で各国に按分する
というルールで2050年の国別排出枠を算出してみた。その結果が表1だが、いろいろと興味深い。

表1 2050年の国別排出量目標値試算










国名排出量排出量90年比排出量05年比一人あたり排出量
世界全体2,85150.0%39.2%1.14
日本67.523.0%19.8%2.41
ドイツ43.216.6%19.5%2.14
アメリカ136.010.2%8.5%1.24
ロシア80.512.6%19.0%2.74
中国617.797.7%44.6%1.61
インド462.6280.3%142.3%1.02

排出量の単位は Mt-CO2

 一人あたり排出量の欄を見れば日本に有利なのは確かだが、日本よりロシアの方が多いのだから、別に日本だけを有利にしたわけではない。
 興味深いのは、2005年比の値が、日本・ドイツ・ロシアがほぼ同じで約20%になっていること。つまりこの三カ国に関しては、上記ルールでの一人あたり基準と、「2005年比80%削減」という相対的基準がほぼ一致しているということだ。

 この表を使っていろいろ分析してみたいことはあるが、今日のところはここまで。

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コメント

 重要な論考だとは思いますが、一人当たりの公平性というのは基本的に過去のことは問わない(既得権も主張しにくい)「時間切断」原則に則る解決策なので、90年を人口の基準年にすべきという根拠自体が弱いのだろうと思いますが。

投稿: SGW | 2008.07.18 12:13

SGWさん

 コメントありがとうございます。
 90年で按分、は説得力がない。そうですか、、、

 説得力の話は今後は止めときましょう。ただ、国別目標値の目安を付けるための論考ですから、今後もこの数字を参照しながら論考を進めるつもりです。

投稿: dai | 2008.07.18 12:42

「一人当たり」よりも「GDP当たり」の方が合理的ではないでしょうか。

投稿: rjs | 2009.06.12 21:12

rjsさん
 コメントありがとうございます。有意義な論点かと思います。

 天与の資源(※1)に対するアクセス権の話なので、「一人あたり同量」が適切でしょう。
 資源の経済的使用効率を反映させたいのであれば、デフォルトで全人類に同量を配分したうえでの排出枠取引という形を取るというのが普通の考え方かと思います。
 また、現在の大気中のCO2蓄積量(=過去の排出量)は現在のGDPと強い正の相関があると考えられるので、デフォルトの配分にあたってはGDPと逆相関させる(GDPの大きい国の一人あたり排出枠をむしろ小さくする)という主張も一定の支持を集めるものと思います(政治的実現性は低いでしょうが)。

(※1) 熱力学的発想から、排出側も供給側と対称の資源と位置づけます

投稿: dai | 2009.06.15 04:12

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