太陽光発電に補助金
6月22日(日)、「太陽光発電、家庭用普及へ補助金 経産省新政策」というニュースが流れた(見出しは日経新聞社)。
これまで本ブログでは、RPSとFITの制度比較を行ない、FITを導入すべきと言う主張を展開してきた。
今回は新たな補助金制度の導入ということなので、FITと建設費補助金の比較を行なってみることにしよう。
制度比較にあたっては、FITの設計と同じ条件を建設費補助にも適用することにする。つまり、建設費(自己負担額)の全額を借入金でまかなった場合でも損が出ない補助率にする、ということである。
【想定】
(1) 毎年度の建設量は、太陽光発電協会の「JPEAビジョン」(※1)から2020年と2030年の国内年間設置容量の値を借用し、作業の都合上それぞれ2021年度・2031年度の年間設置容量とした。また、2008年度の年間設置容量をゼロとして、2009~2020年度、2022~2030年度の値を直線補間した。
(2) 毎年度のシステム価格については、同じく「JPEAビジョン」から2020年と2030年のシステム価格を2021年度・2031年度のシステム価格とし、また2009年度のシステム価格は現在の実勢値として65万円/kWhとした。そして、中間年は直線補間した。
(3) 建設費(自己負担額)は全額借入れることとし、借入れ期間を10年、金利を3%とした。
(4) 年間発電量は、1kWpあたり900kWhとした。
(5) FITケースでは、建設費補助をゼロとし、(3)の借入金を元利均等返済するのに要する費用を(4)でまかなえる額を固定買い取り価格とした。そして、火力の「炊き減らし」コストとの差額が電気料金に転嫁されるものとした。なお、「炊き減らし」コストは21円/kWh(※2)とした。
(6) 建設費補助ケースでは、自己負担額を(3)の条件で借入れて、元利均等返済に要する費用が(4)の販売価格と一致する条件とした。なお、太陽光発電電力の買い取り価格は21円/kWh(※2)とした。
※1 JEPAビジョン の9枚目のスライド
※2 最近のDD原油価格から算出した値に、二酸化炭素排出削減価値を加算した。詳細はエネルギーインフラ投資の誘導手法に関する一考察 を参照
【社会的負担額】
FITケースでは、固定価格買取りにより電気料金に転嫁される金額の年間総額を社会的負担額とした。
建設費補助ケースでは、年間総額補助金総額を社会的負担額とした。
1. FITケース
FITケースにおける上乗せ単価(電気料金に転嫁される部分)と社会的負担額を図1に示す。
図1 FITでの2031年までの上乗せ単価と社会的負担額推移(pdfファイル)
システム価格が2021年まで順調に低下するモデルなので、上乗せ単価も2009年度の66.7円/kWhから14.6円/kWhまで低下する。その後は価格低下の勢いが鈍るため、2031年でもなお7.2円の価格上乗せが発生している。
ただし、あくまでも売電料金を21円/kWhのままと想定しており、実際には値上がりする可能性も高いので、2031年以前に上乗せが不要になることも考えられる。
社会的負担額は、買い取り価格に対する上乗せになるので、累積設置量が増えれば負担額も増加する。ただし2019年度以降は10年前に設置した分の負担がなくなることと、新設分のシステム価格が低下することから、2021年に6,796億円でピークとなり、その後は漸減している。
2. 建設費補助ケース
建設費補助ケースにおける補助率と社会的負担額を図2に示す。
図2 建設費補助金での2031年までの補助率と社会的負担額推移(pdfファイル)
価格低下ペースが、2021年までは速く、その後は遅くなるため、グラフパターンに不連続が生じている。
当初は78.8%という高額の補助率を必要とするが、2021年度には44.9%まで低下し、2031年度には28.6%となる。
社会的負担額のピークは2016年度の6,620億円であり、その後一旦低下するが、2021年度以降は価格低下ペースが鈍化する一方、毎年の設置量は増加しつつけるため、結果として社会的負担額はほぼ一定で推移している。
【評価】
社会的負担額について両社を比較すると、当然のことながら建設費補助ケースの方が前倒しで支出され、FITケースの方が支出が後年度になる。2031年までの累計金額を算出したところ、建設費補助ケースが10兆8730億円、FITケースが10兆5858で、ほぼ同額であった。2031年度以降はFITケースの方が負担額が大きいと予想されるが、ディスカウントレートやエネルギー価格の上昇なども考慮する必要があるので、社会的負担総額はおおむね同程度と言ってよいだろう。
財源について、FITは買い取り価格を発電原価として電力料金に加算するしくみなのに対して、補助金の場合財源をどうするかという点も考えなければならない。
もし仮に電源開発促進税を充当するのであれば、FITと同様電気料金に加算される形になる。また、新たに炭素税などを制定して充当するということであれば、電気のほかガスや石油製品など、より広い範囲のエネルギー料金に加算されることになる。
さらに、毎年度の補助金額をどのように算出するかという問題も残る。予想以上に普及に弾みがつけば、予定以上の額を予算化する必要がある一方、使い残しが出るようであれは翌年度分を削減するといった柔軟な対応が必要になろう。新築住宅のようにスケジュールが固定されるケースも多いことから、年度途中で予算額をオーバーしたら追加予算を確保する柔軟性も必要だ。
したがって通常の一般会計から支出するのは難しく、なんらかの形でエネルギー税制とリンクした制度設計が必要となろう。
FITに対しては、他のエネルギー価格に影響せず電気料金だけを引き上げることから、電力会社がガス等との競争上不利になるという批判がある。
しかし、脱炭素革命を進めるにあたっては、電力は販売量を減らさずに二酸化炭素排出を減らせる(自然エネルギー等を電源に大きく取り入れればよい)のに対して、ガスや石油製品の場合販売量を減らす以外に二酸化炭素排出を減らすことができない。したがって今後さまざまな面で電力会社が有利になると考えられるので、FITによる不利益くらいは甘受すべきであろう。
普及効果の点では、建設費補助とFITとで、無視できない差異がある。
建設費補助の場合、計画発電量(今回は900kWh/kWpとした)を上回ったり下回った際の増収・減収額は炊き減らし価格(21円/kWh)なのに対して、FITでは優遇された固定価格(初年度は87.7円/kWh)となる。
したがって、北向きの屋根や東西の壁面など発電量の少ない場所であっても所有者が希望する場合、建設費補助だと普及が進みやすい。一方FITの場合、不利な条件の場所には設置しづらい一方、有利な場所については利益が大きく促進効果も大きいと予想される(※3)。おそらくFITの方が設備容量あたりの平均発電量が大きくなるだろう。
条件の良いところから急速に普及させる方に力点をおくか、温暖化防止のために多少不利な場所にもどんどん設置する方が望ましいと考えるかによって、どちらの制度が望ましいか、判断の分かれるところであろう。
※3 日射量の地域差については、固定価格にも地域差をつけ格差を解消する制度設計が可能であり、実際にドイツではそのような配慮がなされている。
FITには、エネルギーと直接関係しない利点もある。
先の論考(http://energy-decentral.cocolog-nifty.com/blog/2008/06/post_f903.html)で詳しく書いたように、FITというのはエネルギーインフラ投資に民間資金を引き入れる政策手法である。現在、過剰流動性、つまり「金余り」が国際的に大きな問題を引き起こしており、エネルギーや食糧価格の高騰の一因と言われている状況だ。
FITケースでは太陽光発電投資として固定される資金(借入元金残高合計額)がおよそ5~6兆円になる。民間資金のうち金利より安定性を重視する資金(主に個人資産となろう)を低リスクの社会インフラ投資に引き付けることは重要だろう。
なお、補助金方式の場合でも導入家庭のリスクを軽減するために、10年間の買い取り価格は固定すべきであることを付言しておく。炊き減らし価格は上ることはあっても下がることはないと予想されるので電力会社も対応するとは思うが、固定価格の制度的保証を定めず電力会社の任意に委ねていいかどうか、検討は必要だ。
以上の論考を整理すると、まず建設費補助方式にはエネルギー税制ともリンクした制度設計の難しさが控えているが、うまく設計することができれば、効果も社会負担もFIT方式と大きな違いはないと考えられる。
両社の主な相違点は、比較的不利な場所にも設置が進む補助金方式と、有利なところから普及が進む(不利なところには普及しづらい)FIT、という点であろう。
またFITには、民間資金を引き付けるという利点もある。
私の意見としては、民間資金を活用することと、有利な場所を重視したい(平均発電量は大きい方が望ましい)という点から、FITに軍配を上げたい。
(後日注) 2008年6月28日17:58
このブログ記事の公開後、キャッシュフローモデルの説明不足に気付いた。
本稿では、太陽光発電所の発生電力はすべて一旦電力セクターに売電し、その上で一般消費者に供給するというモデルとなっていることをご承知いただきたい。
実際には太陽光発電設備の多くが住宅やビルに設置され、発生電力から自家消費分を指しいいた量だけが売電されることになるだろう。したがってここに示したとおりの設定だと、発電事業者の受取り金額も、「国民負担」の総額もこの結果よりは小さくなる。
このようなモデル構造を私が採用した理由は、他の自然エネルギー(風力発電、地熱発電、小水力発電など)の場合には全量売電するのがむしろ普通と考えるからである)。
太陽光発電特有の要因を反映した制度設計については、FITの導入が現実的な課題となった段階で、あらためて詳細に議論すればよかろうと思う。
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コメント
FITでの効果にその後の長期に亘る設置者への支払い=資金供給がありますので、経済効果としては一過性ではないmのがあります。そして、それは一般国民の購買力を上げるという事にもなるわけです。原子力や大型火力大型風力などのような案件ではこうした経済効果は薄く、むしろ大資本の利益が優先されますので、FITでも10Kw以下をのみ支援するというぐらいのほうが経済効果も大きいでしょうね。
投稿: お日様大好き | 2008.07.11 15:15
それと、もっと大事な事がありました。成果が分かるという事です。◎◎Kwの発電設備は設置されているというのは分りますが、それが△△Kwhの電力を生産して◇◇KgのCO2を削減しているという効果が分りませんでしたが、それが確実に分るようになるでしょう。勿論、余剰ではなく全量評価をしなければなりませんけどね。目的は電力生産なのですから、電力の生産量を評価の対称にするほうが合理的であることは論を待ちません。
投稿: お日様大好き | 2008.07.11 15:25