オイルプラトー・オイルマネー
石油供給について「オイルプラトー」という概念で分析したらいいのではないかと考えた。現状の石油供給不足がオイルピークに起因するのか、それともスループットの問題なのかという議論があるが、埋蔵量の制約で生産量が頭打ちになった場合でも、埋蔵量は充分残っているが油井の建設が不充分だったために生産量が頭打ちになった場合でも、オイルプラトーという現象が生じることに変わりはないからである。原因の議論を回避して、現実にオイルプラトーが起こっているのかどうか、少し考えてみたい。
本ブログで06/08/20に書いた記事『マネーは石油価格を動かせるか?』を踏襲しているので、分析手法の説明は同記事をご参照いただきたい。同記事の図2を07年08月まで延長したのが「推移グラフ」であり、同じく図3を07年04月まで延長したのが「分析グラフ」である。図2・図3というタイトルもそのまま掲載したため、本記事では図1が欠番となった。
さて、昨年夏までの分析は上記記事で行ったので繰り返さないこととし、その後を検討すると、まず特徴的なのは「推移グラフ」に見られるように、咋夏から今夏までの一年間の谷であろう。咋夏から今年初まで下落し、その後反転上昇して、現在は咋夏とおおむね同程度の価格に戻っている。ただし、咋夏は80ドルに届くか、という状況だったのでまだ少し安い。
次に「分析グラフ」を見てみよう。このグラフは期先物価格について「買った月に戻して」プロットしているため、今年4月のデータで終わっていることにご注意いただきたい(詳細は『マネーは石油価格を動かせるか?』参照)。
まず、「分析グラフ」において、先物グラフが谷型を示していることは「推移グラフ」と同じことである。
次に「利益率」が、咋夏を底として約1年間マイナスだったことに目を向けよう。「利益率」というのは、詳しくは前記事に書いたとおりで、簡単に言えば「マネーで(期先の)先物を買って、しばらく持っておいて、(期近の)先物として売る」というオペレーションでどれだけ得をする(損をする)かを示した指標である。これがマイナスということは、NYMEXで石油先物にマネーを投じた人が平均すると損したことを意味する。
このことを簡単に分析すると、06年8月の(5か月)期先物ピークの後の急激な下落を予測できなかったために損を被った、ということになる。もちろん毎日の細かい上昇下落があるので得をする日ともあれば損した人もあるわけだが、全体を慣らすと損をしているということになる。
しかし、である。
ここで「先高度」のグラフを見ていただきたい。03年夏以降の4年間、かつてないほど長期にわたって、じわじわとコンスタントに「先高度」が上昇している。つまり、石油価格の先高期待に関しては4年間一定の傾向が動いていないということである。これは、NYMEX石油先物参加者の多くがオイルプラトーを認識しているため、と考えて多分間違っていないと思う。私よりはるかに多くの石油情報を持っているプレーヤーがそう考えているということは、オイルプラトーについては(オイルピークと違って)議論の余地が少ないと言えるのではないか。
さらに、オイルマネーについて、具体的情報は全くないので乱暴な議論だけれど、少々論考を加えてみたい。
「利益率」を見てわかったように、昨年後半はマネーが損をしている。しかし、そのマネーがオイルマネーだとしたら、損はしていない可能性が大きい。
「利益率」は、「普通のマネー」がNYMEXで石油先物を買い・しばらく持ち・現物になる前に売るという条件で計算しており、「普通のマネー」は現物に触らない(油槽所を持っていないし、油槽所の中の現物の石油を動かすことに興味を持たない)ことを前提としている。
ところがオイルマネーは、値下がりした場合には期近になった時点で損することがわかれば、期近先物で売る必要がない。現物を売ればいいのである。消費地の油槽所を持っていなくても、産地の油井を持っているからである。
すでに明確なように、石油価格は油井の採掘原価を大きく上回る価格帯になっている。
したがってオイルマネーが(期先の)先物を高く買いすぎた場合に現物になってから売ったとすると、「もっと高く売れたはずなのに安く売ってしまった」、つまり儲け損ねたことにはなるが、損はしていないのである! マネーの場合には掘削原価は無縁なので「高く買って安く売った」ら純粋に損だ。
もう一つ、オイルマネーは石油産出量の見通しについて私たちがアクセスできない情報を持っていることを指摘しておこう。つまりオイルプラトーが確実かどうかについて、実際の油田の情報をオイルマネーは持っている。
もし私が主要産油国でマネーの運用を担当していたとしたら、そしてオイルプラトーの情報を持っていたら、NYMEXでのマネー運用は魅力的だと思う。基本的に先高傾向は揺るがないので儲かる基調。仮に需要側の理由で値崩れしても、儲け損ねることはあっても損することはない。かなりおいしい話ではないか。
オイルマネーがNYMEX石油先物に流入しているかどうか、調べる手段を持っていないが、「分析グラフ」の「先高度」がこれだけコンスタントに上昇している理由を推理すると、オイルマネーが関わっている可能性は小さくないのではないかと思うのである。
(注)
この記事を掲載した後に気付いたことがあります。
分析グラフのデータは期先物データの処理方法の関係で2007年4月のデータまでしか入れてありません。しかしその直後、5月から「先高度」が急激に低下し、8月にはマイナス(期近高-期先安)になりました。
9/7の深夜に読み直していて、一瞬データに何か間違いがあったか、と焦ってしまい、一時記事を削除したりしましたが、結果的にデータの間違いではなく、5月以降に急激な変化があったことがわかったため、記事自体は再度掲載しています。
ただし、この記事の分析は4年間にわたる「先高度」のコンスタントな上昇を前提に書かれているので、それが低下した今、何らかの見直しが必要と考えています。
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