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マネーは石油価格を動かせるか Ⅱ

 先に「マネーは石油価格を動かせるか」という問題設定で小論を掲載し、「マネーが石油価格を高値に維持している、という主張には疑問を持たざるを得ない」と結論づけた。
 しかしその後、思考を重ねているうちに、マネーが石油価格を動かす一つの構造的可能性に気がついた。本論はその内容をまとめたものである。
 先の小論を読まずに本論を読む方のために一つだけ注意しておくと、ここで論ずる「マネー」とは投機市場に回る比較的長期の資金のことを指し、たとえば年金基金のような資金をイメージしている。毎日のように売買を繰り返す短期資金に関しては、短期の売買が長期価格の傾向にバイアスを書けるのは難しいと判断して除外し、比較的長期で運用される資金を想定したものである。

1. 近年の企業経営、とくにアメリカで顕著な傾向
 ここでは、この内容自体を「論ずる」ことは到底私のなしうるものではなく、あくまでも私の理解を整理するだけである。
 そして私の理解は「投資家への配当率(使用資本回転率)を他の要素より重要視する傾向の強さ」ということになり。そしてこのことが「(a)設備投資ヘの躊躇」「(b)在庫の圧縮」という2つの傾向として現れたときに、マネーが石油価格を動かす(高値を維持する)可能性が出てくるのではないだろうか。


2. マネーは現物に触らない、と前提した理由

 先に書いた「マネーは石油価格を動かせるか」では、マネーは現物に触らないという前提を置いた。これを私が前提とする根拠は、石油と穀物を比較するとわかりやすいだろう。
 穀物の先物相場に投資した場合、決裁期限が近づいた時点の価格が予想より安く、かつ短期的上昇の可能性を予測しているのであれば、先物として売却するのではなく一旦現物にしてからタイミングをはかることがさほど難しくないだろうと思う。倉庫に預けておけばいいのだから。
 穀物には収穫期と端境期があるので、収穫の大部分は倉庫に貯蔵され、収穫物所有者はそれぞれタイミングを見計らって売却をはかるというのが基本的なオペレーションの姿になる。倉庫の施設数は主要産地の収穫直後のピークにあわせて建設されているはずだから(野ざらしにはできない)、平均すれば倉庫の半分は空だということになる(収穫期に幅があるので「半分」は極端だが)。また穀物倉庫はそれほど特殊な設備を要しないだろうから(建設費も安く、既存倉庫の改造等他業種からの参入も容易)、倉庫の賃貸借に関してはどちらかというと賃借者(穀物所有者)の方が強気で価格が決まるであろう。
 したがって穀物の現物に投資した場合、所有し続けるコスト(倉庫料)をあまり気にすることなく、相場の動向で販売のタイミングをはかればいいということになる。
 一方石油の場合、油槽所というのは穀物倉庫よりかなり特殊な設備であり、建設費もだいぶ高いだろう。また、石油関連企業(主要営業品目として石油の現物を扱っている企業)以外が建設するケースは稀であろう。
 さらに、石油には特定の収穫期は存在せず一年を通じて流通していることから「平均して半分が空」という穀物と比べると平均的な充填率はだいぶ高いだろう。建設費の高い油槽所を空にしておくと資本利益率を圧迫するので、経営者としても充填率をあげるようオペレーションを工夫するだろう。
 以上のことを考えて、石油先物市場に参入したマネーが現物になっても持ち続け売却タイミングをはかるというケースはごくまれであり、通常は先物の段階で売却すると判断したものである。


3. マネーが現物に触る可能性

 さて、本当にマネーは現物に触らないか、ということで 2. の条件を吟味した結果、油槽所が空いているのではないか? という点に気がついた。
 産業部門で在庫圧縮が盛んに問われるようになって久しい。当然石油業界でも経営課題となっていておかしくない話だ。オペレーションの改善で油槽所の原油在庫を減らすことができれば資本回転率が上る。ただし在庫を減らしただけでは仕入れ資金を圧縮できるだけであって、作ってしまったタンクの設備投資分は何ら回収できていない。空いたタンクをどうすればよいだろうか?
 ここで一旦マネーに話を戻すと、石油に関してマネーの弱点は油槽所を使えないというところにあった。つまり、強気で購入した先物が決済日が近づいても値上がりしなかった場合、最後は(決裁で現物になる直前までに)石油会社に対して叩き売りせざるを得ない。これがマネーの弱点であり、ここが解決できないとマネーの力で石油価格をつり上げることは難しい。
 そこへ、目の前に空のタンクが出現した。


4. 石油会社とマネーの利害の一致

 あらかじめ書いておくが、私はオイルエコノミストではなく、このブログは個人的覚書兼、知人との議論のネタ貯蔵庫にすぎない。したがってここに書いていることは、あくまでも「~の可能性がある」と言っているに過ぎず、石油取り引き関連データ等による実証は一切行っていない。
 しかし論理的に考えれば、在庫を圧縮したい石油会社と、取り引きの可能性の幅を広げたいマネーとの利害は一致するに違いない。石油会社にとってみれば、在庫資金の圧縮に加えて、石油保管料の日銭まで入ってくることになり、資本利益率が向上する。マネーの方は、決済日が近づいても焦る必要がなくなるし、思いきって現物取引に手を出すことも考えられる。かくして、在庫圧縮により空になった油槽所に、マネーが購入した石油があらためて貯蔵されることになるだろう。


5. 利害が一致?

 4. を読んで不思議に思う方が多いだろう。
 マネーが強気で取り引きし石油市場価格をつり上げるということは、石油会社にとっては仕入値の上昇を意味する。自分が購入する石油の仕入値をつり上げることに協力する。そんなばかなことを誰がするのか? 利害が一致するはずがない。
 ここで以前の電力会社の振舞を思い出してほしい。都道府県企業局が「新しい水力発電所を建設しました。電気を買ってください」ともちかければ気楽に買ってくれた。公営企業にはコストにルーズな部分があるにもかかわらず、それも考慮した価格で買取ってもらえた。そしてその背景には「総括原価方式」があった。
 説明は省略するが、かつての電力価格は、コストをすべて積み上げた上で一定率の利益を加算して算出したもの。したがって、いくらコストが上昇しても、その分は完全に価格に反映することができた。それどころが、利益は「率」で規定されていたので、コストと価格が高くなるほど利益の絶対額は増加する。
 これと同様、原油価格の上昇分を販売価格に完全に転嫁できるのであれば、購入する原油価格の上昇は苦にならない(利益の絶対額が増加することだってあるかもしれない)。だとすれば、マネーから受け取る保管料分がまるまる利益になる計算だ。
 石油企業とマネーがグルになって石油製品価格をつり上げている、と言うこともできるだろう。裏で話し合っていたら犯罪行為だが、与えられた条件のもとで利益最大化を図った結果であれば通常の商取引ということになる。


6. 価格を転嫁できるための条件

 石油会社(石油製品の一次供給元)が購入する原油価格の上昇をすべて転嫁できるためには、5. でかつての電力会社を例に引いたことからもわかるように、かなり強い寡占状態が必要となる。そして 1.で書いた「(a)設備投資ヘの躊躇」がここでようやく登場する。
 多くの石油会社が設備投資を躊躇し、かつ石油製品需要が価格硬直的であるとすると、石油製品の供給に寡占状態が生まれる。
 ここで時間軸について補足的検討を入れよう。「多くの石油会社が設備投資を躊躇」というのは長期的傾向かもしれないが、石油製品需要の価格硬直性は短期的(数カ月~1年以内)にはかなり堅固と考えられるが、長期では保証されないと考えた方がいいだろう。もしも石油会社の経営者が価格硬直性が長期に保証されると考えて経営したとしたら危ない。
 一方油槽所の余剰貯留能力の方もせいぜい数カ月であろう(国が義務づける備蓄要領は全く別の話)。したがって、4.~5. という状態は、石油会社がその状態から撤退しようとすれば大きな傷を負わずに撤退できると言っていいだろう。石油製品に対する価格転嫁が崩れそうになった時点で油槽所の貸出を停止することで、速やかに腐れ縁を切ることができる。その結果石油先物価格および現物価格(仕入値)は急落するであろう。


7. 善悪の評価(to be continued...)

 寡占状態と明示したことからおわかりのように、石油製品市場が不完全だからこそこのような事態が生ずる。「だから悪だ」というエコノミストがいっぱい出てきそうだ。
 残念ながら私は経済学者やエコノミストを自称する方々をあまり信用していない。一言で言えば部分的なことしか言わないからだ。一部分だけ見れば立派な話だけれど、、、
 今回の件で言えば「投資家重視」という人たちは、古くて乱暴な、19世紀以前の「資本主義者」に見える部分がある。投資家が得をしようとしたら独占・寡占はのぞましいこと。今回書いたロジックはこの路線をトレースしたものであり、結果的には有限の地下資源を保護する方向に機能したことをメモしておこう。
 一方で自由市場を重視しようとすると、このような一部の利益共同体による価格上昇を否定することになるが、それは資源価格が安くなることを意味する。こういう主張をする人々は資源の無限性あるいは自由度の高い代替性を信じているようだが、それは疑問だと思う。
 このブログの「ピークオイル論に関する議論の整理と自分の立ち位置」で描いた図1(pdfファイルをダウンロード)というやつにこのことが一つ現れている。「エコノミストが望む?」線1は、資源を自由にガンガン使いながら、次の資源に代替していけばいい。在来型の石油がピークを迎える前に次の資源の実用化に成功すれば、在来型石油が線1のようにピークアウトしても、次の資源がそれを補ってさらに成長をもたらす。そういう考え方。
 19世紀ばりの古い資本主義だと、この図の線2になるかもしれない。ピークがいつになるかはともかく、ピークを想定してマネーと石油会社が結託し、寡占を活かした価格高騰を維持することに成功したとすれば、線2が実現する可能性は充分にある。

 「古い資本主義」と「自由市場礼賛」という対立構造について、資源保護という観点からは「古い資本主義」の方がよさそうにも思えるけれど、もちろんそういう結論になるはずもないだろう。私たちは第三の道を見つけなくてはならない。
 トリッキーで不完全(乱暴?)な言い回しを含みにしつつ、to be continued...

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